2008年3月11日(火)
欧米中銀の資金供給拡大の影響を考える
[エコノミー]
欧米の5中銀が短期金融市場への資金供給を拡大
米連邦準備理事会(FRB)は11日、昨年12月に発表した欧州中央銀行(ECB)など海外の中央銀行と金融市場の安定化を狙った協調行動の拡充を図る旨の緊急声明を発表した。FRBのほか、欧州中銀(ECB)、英国、スイス、カナダの各中銀も同様に声明を発表、短期金融市場への資金供給を拡大する。また協調行動には参加しないが、日銀とスウェーデン中銀もこの取組を歓迎する声明を発表した。
FRBはプライマリー・ディーラー向けにターム物証券担保貸出制度(TSLF)を行う発表。規模は最高2000億ドル、貸し出し期間は28日間。27日から週ベースで入札を設けるという。貸し出しの担保として、連邦エージェンシー債、連邦エージェンシーの住宅証券担保証券(MBS)、AAA/Aaa格付けのMBSを受け付けるのが特徴。このほか、ECB及びスイス国立銀行との間に結んでいる緊急時のため通貨スワップ規模の拡大を承認した。ECB向けには最大300億ドル、スイス国立銀行向けには60億ドルのドル資金を融通、これまでよりそれぞれ100億ドル、20億ドル拡大した。
11日の市場はFRBの発表を受け株価指数先物とドルが急伸、商品市場にはドル高を嫌気した売りが先行した。もっとも、そうした動きは2時間ほどしか続かず、その後はどの市場とも一様に買い戻しが集まっている。今回の追加資金供給は、商品市場にどのような影響を与えるのだろう。
株式市場に資金は還流するか
まず考えられるのは、金融市場における流動性不足に対する不安が後退、株式市場に買いが集まるシナリオだ。このまま奇跡的に株式市場が回復に向かえば、それまで株式市場から商品市場などに流出していた投機資金が株式に還流、商品には大きな売り圧力となる可能性はある。ただ、市場への資金供給だけで全ての問題が解決すると考えるのはあまりにも楽観的過ぎる。18日に開かれるFOMC、あるいはそれ以前の緊急会合による利下げも同様で、効果が表れるまでには一定の期間を必要とする。
金市場からのキャッシュ引き出し懸念は後退
今回の行動は景気回復を狙うというよりも、最悪の事態を避けるための緊急避難的処置と捉えるのが自然だろう。そうなると、商品市場、特に金市場などにはプラスの面が見えてくる。これまで金融市場の不安不が高まり株価がパニック的な急落を見せる局面では、決まって金にポジション整理の売りが出て相場が大きく下げてきた。これは、株式市場における損失拡大に伴う証券会社へのマージン支払いに充てるため、利益の出ている金のロングポジションを手仕舞い、キャッシュを引き出す動きが加速するのが理由とされている。こうした因果関係が何処まであるのかは疑問が残るところだが、少なくとも株価急落などで市場の不安が高まれば、投資家の間に商品を含めとにかくリスクポジションを縮小しようとする行動が見られるのは確かだ。今回の資金供給でこうした不安が後退したのだとすれば、改めて金をはじめとした商品市場に買いが集まることも十分に考えられよう。
金融緩和政策は基本的に買い
中長期的には、どのような影響があるのだろうか。ここまでの商品市場の上昇が、FEDの金融緩和政策に伴い市場に溢れ出た資金が商品市場に流入し続けてきたことによるものであることに疑いの余地はない。こうした市場への短期資金の供給も金融緩和政策の一種であることに違いはないことを考えると、やはり商品市場に強気に作用すると考えるのが自然だろう。
こうした資金供給は金融市場が危機的状況にある故に行われているわけで、その点では市場に前述したようなリスク回避の動きが加速しても全く不思議ではない。現に債券市場では安全な米国債のみに資金が集中、他の債権価格はは軒並み値崩れを起こしている。例えばサブプライム問題と共に注目を浴びるようになった資産担保証券(ABS)の指標となるABX指数は、サブプライム・ローンなどを対象とした格付けの低いBBB格だけでなく、AAA格の指数も大きく下落している。
しかしながら、こうした状況の中でも商品価格は上昇を続けており、市場にリスクを回避しようとする動きはほとんど見られていない。足元では世界的にマネーが余っており、投資家が必至になってリターンを求めて投資先を探しているというのが現実だ。その象徴となっているのが原油価格の上昇に伴うオイルマネーの席捲と、FEDによる相次ぐ大幅利下げではないだろうか。結局、何かをきっかけにこの流れが変わらない限り、商品市場の上昇も止まらないのだろう。最悪のシナリオとして前述した株価大暴落→リスクポジションの大幅縮小というのがあるが、もう一つのシナリオとしては景気見通しの好転→インフレの加速を警戒したFEDによる金融引き締め策への転換というのも考えられる。今回の資金供給で前者の可能性はやや後退した。まだしばらくは、今の状況が続くことになるだろう。
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