2006年12月12日(火)
OPEC総会では何に注目すべきか
[エネルギー]
注目を集めるOPEC総会
14日にナイジェリアの首都アブジャで石油輸出国機構(OPEC)の臨時総会が開かれる。原油価格が天井知らずの上昇を続け、加盟国は能力の限界まで石油を生産していた今年前半までは、総会も現状維持の決定を繰り返すだけでほとんど見るところもなかった。しかし、最近の価格下落を受け10月にカタールのドーハで開かれた緊急総会では市場予想を上回る日量120万バレルの減産を行うなど事態は急変、次回総会に対する市場の注目も大いに高まっている。ここでは、総会での決定を占うと共に、OPECが抱えている問題をあぶりだすことで、その先の動きを見通してみたいと思う。
ドーハにおける減産決定は相場を反転させず
OPECは10月19、20日の両日にカタールのドーハで緊急総会を開催、日量120万バレルの生産量引き下げを決定した。市場では多くとも100万バレルまでの減産に止まるだろうという見方が多く、100万バレルを超える減産はかなりのサプライズだったといえよう。
ところが、市場は発表直後こそ買いが集まったものの、OPEC加盟国が減産を遵守しないのではとの疑念が浮上。減産の成果が輸出量などの具体的な数字になかなか表れてこなかったこともあり、相場は11月には1バレル60ドルを割り込むまでに落ち込んだ。
-OPEC緊急総会で決定された減産目標と実際の減産量-
(生産量はダウジョーンズ社の調査による、単位1,000バレル)
加盟国 | 目標減産量 | 06年11月 | 06年10月 | 前月比 | 減産遵守率 | 従来の生産枠 | |
サウジアラビア | 380 | 8780 | 9070 | ↓ 290 | 76.3% | 9099 | |
イラン | 176 | 3900 | 3900 | →0 | 0.0% | 4110 | |
ベネズエラ | 138 | 2460 | 2510 | ↓ 50 | 36.2% | 3223 | |
UAE | 101 | 2490 | 2570 | ↓ 80 | 79.2% | 2444 | |
ナイジェリア | 100 | 2250 | 2380 | ↓ 130 | 130.0% | 2306 | |
クウェート | 100 | 2480 | 2530 | ↓ 50 | 50.0% | 2247 | |
リビア | 72 | 1670 | 1700 | ↓ 30 | 41.7% | 1500 | |
インドネシア | 39 | 850 | 850 | →0 | 0.0% | 1451 | |
アルジェリア | 59 | 1330 | 1360 | ↓ 30 | 50.8% | 894 | |
カタール | 35 | 795 | 820 | ↓ 25 | 71.4% | 726 | |
OPEC10 (イラク除く) | 1200 | 27005 | 27690 | ↓ 685 | 57.1% | 28000 | |
直近の加盟国閣僚発言
以下に各加盟国のスタンスと、最近の閣僚発言を列挙する
- 減産に積極的 -
サウジアラビア(ヌアイミ石油相) ・現在の市場は明らかな供給過剰、最低1億バレルは供給を削減する必要がある。(12/1)
・減産決定は価格水準ではなく、需給バランスで決定。(11/25)
ナイジェリア(ダウコル石油相)
・追加減産は実質的なものとなるべき(12/12)
・63ドルという価格水準はまだ低すぎる。(12/8)
イラン(ハメネイ石油相)
・追加減産の必要性をOPECに理解させる(12/12)
・OPECの減産決定は十分に遵守されておらず、追加減産を行う必要がある。(12/2)
カタール(アティーヤ石油相)
・サウジの1億バレル削減は良い提案(12/2)
・供給過剰が続けば追加減産を決定する。(11/24)
ベネズエラ(ラミレス石油相)
・追加減産は50万バレルに上る可能性がある。(11/30)
アルジェリア(ヘリル石油相)
・追加減産の実施は1月末から。(11/30)
・OPECは減産で市場に安定を取り戻すことが出来る。(11/29)
- 減産に慎重 -
クウェート(アル・サバー石油相)
・OPECは総会で50万バレルの減産を検討、指標となる原油価格を60ドル以上に維持することが目標。(12/11)
・最近の価格上昇で、追加減産の必要性はなくなった。(12/2)
リビア(ガネム国営石油代表)
・追加減産は約束されておらず、市場の分析が先決。(12/12)
・在庫は確かに高水準にあるが、現在の価格を考慮すればそれほど懸念することもない。(12/6)
UAE(アル・ハミリ石油相)
・石油備蓄の積み増しと供給過剰が市場の下落要因(12/12)
・追加減産の決定は総会まで待たなければならないが、必要ならば減産に踏み切る。(11/29)
インドネシア(プルノモ石油相)
・OPECは追加減産を決定したわけではない。(11/21)
追加減産の可能性は高い
現時点における加盟国閣僚の発言を見る限り、14日の総会で追加減産が決定される可能性は高い。OPECのリーダー的役割を担うサウジが積極的なのに加え、OPEC議長で今回ホストを務めるナイジェリアのダウコル石油相も何度となく追加減産を示唆しているのが大きいだろう。また、総会に先立って開かれ、加盟国閣僚への提言をまとめるOPEC閣僚監視委員会(MMC)の議長を務めるイランも減産に積極的だ。MMCはイランの他クウェート、ナイジェリアで構成され、OPEC事務総長がオブザーバーとして討議に参加する。
価格か、需給バランスか
また、OPECが総会で何を基準に追加減産の是非を決定するのかにも注目したい。サウジのヌアイミ石油相はあくまでも市場の供給過剰が問題と、価格水準に関係なく減産を行う意向を示している。この他、UAEやナイジェリアなどからも、消費国における現在の在庫水準を懸念する声が聞かれる。サウジの目標は市場から1億バレルの供給を消し去ることだから、総会前に少々価格が上昇していたとしても、減産を主張するだろう。そして、その後価格が高騰したとしても、米国内の在庫が大きく取り崩されない限り、安易に生産量を増やすこともしないのではないか。
一方、クウェートは完全に価格次第というスタンスだ。63ドル以上に上昇しそうな時には追加減産の必要なないと言っておきながら、11日には50万バレルの減産を示唆、60ドルの水準を維持するという明確な価格目標を打ち出してきた。湾岸戦争で米国に大きな借りがあるクウェートは、遠慮して積極的に減産を主張しにくい立場にあるが、価格下落をその口実にしようとする意図が見え隠れする。その他、リビアやベネズエラも価格によって態度を変えそうな雰囲気だ。
いずれにせよ、加盟国は価格が下がるようなら減産に異論はないことになる、61ドルを割り込むような水準なら、何の問題もなく追加減産が決定されるだろう。問題は今後数日で価格が上昇した場合だ。クウェートなどの慎重派をうまく説得することが出来るか、仮にサウジが主張を押し通したとしても(恐らくそうなるだろう)、加盟国内にしこりを残した状態で決定が遵守されるのか、かなりの不安が残るだろう。
11日にはバーキンド事務総長が、追加減産の見通しを述べるにはまだ早すぎると、慎重なコメントを残している。在庫水準は依然として非常に高いものの、(価格上昇に対する)消費者への影響も考慮するというのがその理由というが、総会前に価格が上昇するのを抑え、減産の合意をより確実なものにするための準備工作と見るのは考えすぎだろうか。
新規加盟をきっかけに割当比率変更問題が再浮上
アンゴラ政府は11月29日、OPECに対し加盟を申請することを閣議決定した。他にもエクアドルやスーダンも加盟を決定しており、総会でも話題に上るだろう。アンゴラに関しては、バーキンド事務総長が総会で承認され、正式メンバーとして迎え入れられる見通しを示している。加盟国が増えること自体は、市場に対する影響力を高めることから、OPECにとってプラス面の方が大きいだろう。しかしながら、これにより加盟国間の生産割当てという問題が再浮上するという、マイナス面が出てくる可能性があることも忘れてはならない。
生産割当比率の変更は、04年あたりまでOPEC内でも結構論議されていた問題だ。開発投資が進み、生産量が大幅に伸びているアルジェリアやリビアといったアフリカ勢が自国の割当枠引き上げを盛んに主張、大きな生産枠を持ちながら、投資不足で生産が追いつかなくなったインドネシアやベネズエラ、イランを筆頭に、割当変更で特に利益を得ることのない加盟国がそれを押さえ込むという構図が続いていた。
ところが、この問題はその後価格が高騰、OPECが増産を進め加盟国が能力限界まで生産するのに伴い、いつの間にか立ち消えとなってしまった。皆が能力限界まで生産を引き上げたことで、生産枠自体がほとんど意味を成さなくなったからだ。
そして今OPECが減産に転じ、再び状況が変わろうとしているタイミングで浮上したのが、アンゴラの加盟というわけだ。新規に加盟国が増えることで、OPEC全体の生産枠も増える。割当枠引き上げを求める国にとって、割当比率変更を求める絶好のチャンスとなるに違いない。
ベネズエラのラミレス石油相は、アンゴラが加盟を表明して間もない11月30日、新規加盟があっても生産枠が拡大するだけで、現在の割当比率が根本的に見直される事はないとの見通しを述べ、この問題に対し神経質な面を見せている。
かつて割当増を主張していたアルジェリアやリビアは今のところこの問題を表に出していないが、減産が進んで各国の生産余力が増えれば必ず議題に乗せてくるだろう。今はそのタイミングを見計らっているに過ぎないのではないか。それが今回なのか、3月の定例総会なのか、それとも1月末か2月初めと噂されている臨時総会なのか、興味は尽きないところだ。現在の比率はイラクがクウェート侵攻を理由に国連から制裁措置を受け、自由に石油を輸出できなくなった際に決められたもの。そろそろ見直されても良い頃ではないか。
減産の実施方法にも注目
生産枠の見直し問題とも関係するが、今回追加減産が決定された場合、その方法にも注目したい。10月の緊急総会では従来のような生産枠の引き下げという形は取らず、実質の生産量から加盟国がそれぞれ割り当てられた目標に応じて減産を実施するというものだった。生産枠が事実上機能していない現実を受けた処置とは思われるが、これが今回も引き続き採用されるようなら、生産枠という枠組み自体がなくなってしまう可能性もないとは言えない。
OPECはかつてバスケット価格で22から28ドルという価格目標帯(プライスバンド)を採用、それを下回れば自動的に減産、上回れば増産という自主ルールを制定していた。ところが2003年12月に上限の28ドルを超えて以来価格が、価格はこの水準に二度と戻ることはなく、プライスバンドルールは有名無実化してしまった。OPECもその後しばらくはプライスバンドに言及していたが、いつの間にかそれを話題にするものもなくなり、ルールは廃止されてしまった。
この他の例を見ても、OPECは結構頻繁にそのルールを見直している。生産枠にしても、この先の加盟国による開発ペースがまちまちなことを考えれば、比率をいつまでも固定するのは無理があるだろう。10月の緊急総会で採用した実際の生産量に基づいてその時その時で減産、あるいは増産目標を割り当てるという手法が機能すると分かれば、細かい加盟国間の生産割当てなど、あっさりと捨て去ってしまうかもしれない。
イラクとインドネシア
今のところ減産にまったく関与してない、イラクとインドネシアについても取り上げておきたい。
イラクの国内事情を考えると、復興資金に充てられる石油収入を自ら制限するようなことは考えられず、生産枠に組み入れるという話もまだ当分は出てこないだろう。しかしながら、今後生産が伸びてくるようになれば話も違ってくる。現在は日量200万バレルを境に伸び悩んでいるから良いものの、OPECが減産してもイラクがその分どんどん生産を増やすという状況になれば、加盟国も黙っていないだろう。
現在も石油の純輸入国であるインドネシアは、その存在意義自体が問われている。10月総会後も早々に減産協定無視を宣言、一時的な価格下落を誘発した経緯もある。今回の総会でも、そういった行動が相当槍玉に上げられるのではないか。
両国とも今後の状況次第では、OPECを脱退することも十分に考えられる。総会で注目を集めることもないだろうが、まったく無視しても良いわけではないことを改めて確認するべきだ。
減産の可能性とその後の価格動向
参考までに、OPEC総会で考えられるシナリオと、他に新たな材料が出てこない前提での年内の目標価格を挙げておく。現時点では追加減産を決定する可能性は非常に高く、おそらくは4か5のシナリオになるではないか。
1. 追加減産見送り、3月の定例総会まで臨時総会開催もなし ⇒ 58ドルを割り込む
2. 追加減産は見送るが、3月の定例総会までに臨時総会を開いて再検討 ⇒ 58-59ドル
3. 日量30万バレル程度の小幅減産 ⇒ 60-61ドル
4. 日量50万バレルの追加減産 ⇒ 62-64ドル
5. 日量80万バレルの追加減産 ⇒ 64-66ドル
6. 日量100万バレルの大幅減産 ⇒ 66ドル以上
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